外山周です。
英語のご相談には「論理+心+日本語」で答えるのがモットーで、日本の英語学習という分野に「心」を持ち込みたいと常々野望を抱いています(笑)。
私の論理は第二言語習得研究に終始しますが、実はこの第二言語習得論の中に「心」に非常に近い仮説があります。
クラッシェンという言語学者が提唱したもので、「情意フィルター仮説」と言います。
今日はこの情意フィルターについて書きたいと思います!
情意フィルターについて
情意フィルター仮説とは、学習者の心理的(感情的)な状態が言語習得に影響を与えているというものです。
「動機付け」「自信」「不安」の3つの要素について、ポジティブならば言語習得は上手くいき、ネガティブなら難しくなるという仮説です。
情意フィルターが高い状態
→ 言語を学ぶ動機がなく、習得できるという自信がなく、「失敗したらどうしよう」等の不安が強い
情意フィルターが低い状態
→ 動機がハッキリしていて、自分に自信があり、不安があまりない
心理状態が良いのは、フィルターが低い状態です。
言語の習得に効率の良い論理はありますが、この情意フィルターが適切な状態に保たれ、言語に対してオープンな状態でないと、いくら論理を用いても習得が難しくなってしまうということです。
あえて単純に言えば、「心理状態が良ければ、早く言語を習得できる」ということになります。
動機付け、自信、不安。
この3つの要素と向き合ってオープンな状態を保ち、情意フィルターを低くしておくことが、言語習得の鍵になります。
情意フィルター仮説の限界
クラッシェンの情意フィルター仮説については、心理面が言語習得に影響するという点には幅広い同意が得られています。
しかし「動機付け」「自信」「不安」の要素を細かく見ていくと、学習者にはたくさんの例があって一概には言えず、それが情意フィルター仮説を万能とできない一因です。
例えば「間違う不安が強いからこそ勉強に励み、言語を習得した」という人がいた場合、クラッシェンが提唱した「不安が強いと習得が遅れる」には当てはまりません。
私たち教える側は、特に日本では情意フィルターの存在を知らず、知っていても「自信」や「不安」にアプローチする技術を持たない人が殆どです。
そのため「情意フィルターとは言っても学習者次第だからね」となってしまうことが多く、英語を教える現場でこの仮説が完全に活かされるのは、まだ先のことになるでしょう。
「言語適性」という要素
さらに情意フィルター仮説が万能ではない理由として、「言語適性」が挙げられます。
人にはそれぞれ「言語適性」があります。
物理や数学、球技などに対する「適性」と同じです。
この言語適性が元から高い場合、不安が強く自信がなかったとしても、自分にプレッシャーをかけて頑張れば、最低限の英語はあっという間に習得できてしまう人がいます。
逆に言語適性が低い人は、どんなに自信がある人でも一定以上の英語力をつけるのに苦労することがあります。
言語習得のスピードに心理状態のみが関係しているということはなく、それを教える側が実地で知っているからこそ、この情意フィルター仮説が一般的になり得ないのかもしれません。
心理状態が本当に直結するもの
私は個人的には、クラッシェンの情意フィルター仮説は素晴らしいと思っています。
言語学者がこの仮説を出した、というところがすごいです。
言語の習得は数値化できず、目に見えません。
そのため話者自身が「話せた!」と思えばそれが「習得」となります。
不安が弱く自信がある人の「習得」と、不安が強く自信がない人の「習得」は、そもそもネイティブから見たらレベルが違うのかもしれません。
そう考えれば、動機付け、自信、不安の要素が「習得」のスピードを変えると言われれば、確かにその通りだと言えそうです。
情意フィルターは「楽しさ」に直結する
また、情意フィルターの3つの要素は「楽しさ」に直結しています。
自信があり不安が少ない人=心理状態が良い人は、英語が上手く話せるかどうかをあまり気にしません。
「通じればいい」から始まって、それが達成されると「もっとフォーマルな英語を話したい」というように目標をステップアップさせていきます。
そのスピードは必ずしも早くありませんが、それでも習得の過程、練習の過程を楽しんで行っています。
「ジス!トライ!グッド!」
以前私の友人が、パーティーで外国人に英語で話しかけるのを見たことがあります。
友人は料理を勧めるのに「ジス!トライ!グッド!」と言っていました。
この光景は、私にはとても衝撃でした(笑)。
私は情意フィルターが高いので、ある程度喋れはするものの、「英語完璧じゃないから話したくないな」と思っていたからです。
友人の英語はお世辞にも上手くありませんでしたが、それでもコミュニケーションはちゃんと取れていて、2人も楽しそうにしていました。
友人はきっと「自信」があって、「不安」はなかったのでしょう。
もっと話したい、もっと伝えたいと思えばそれが友人の「動機付け」となり、英語をもっと勉強して練習するようになるのかもしれません。
後記
情意フィルター仮説は、単純に言えば「心理状態が良ければ第二言語の習得が早まる」という、ごくごく当然の提唱です。
英語学習に行き詰りを感じてしまった時は、別の突破口として「情意フィルター」の存在を思い出してみてください。
どうして英語を習得したいのか?
不安はあるか?自信を持てているか?
など、一度心理面にフォーカスをしてみると、また違う方法が浮かんでくるかもしれません。
長く英語を教えてきた身としては、「不安」や「自信」にアプローチする技術を持つ人が増えて、もっと英語を教える現場で情意フィルター仮説を本当に活かせる日がくればいいなと思います。

外山 周
幼い頃から思っていることを言えずに育ち、アメリカの大学をうつ病で中退。帰国後に就職して英語スクールの立ち上げで成功するも、燃え尽きて退職。その経験から心理セラピストを目指すが、その過程で婚約者と破局。そんな中でセラピーを極め、見えないものに敏感なことを活かして「癒える」と「言える」に寄り添うセッションを開始。恋愛セラピーが好評。
心理セッションと英語トレーニングを組み合わせた、独自の英語サポートも準備中。
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