外山周です。
あなたが英語を勉強する理由は何ですか?
「必要だから」
「やりたいことがあるから」
「単純にステータスのため」
「趣味で楽しいから」
などなど、色々な理由があります。
私も今までたくさんの方をサポートする中で、人それぞれ、様々な理由と出会ってきました。
理由や動機があって英語を勉強しているはずなのに、楽しく英語と関わっている方もいれば、英語に触れること自体が苦しくて仕方ない!という様子の方もいました。
これは会社員時代に私が出会った、ある若い女性のお話です。
英語が苦しくて仕方なかった女性の「TOEIC860点取りたいんです」という表面上の言葉を信じ、きついトレーニングを課してしまったお話を書こうと思います。
本当の気持ちと言葉は違う
顕在意識は「転職したい」、
潜在意識は「辛くて逃げたい」
その20代前半の女性は、可愛らしくてふんわりした印象の人でした。
「TOEIC860点を取って、外資系の会社に転職したい」という目標をお持ちでしたが、初めてお会いした時の印象は、失礼ながら「本当にそう思ってるのかな…?」でした。
直感でなんとなく、「本当に英語がやりたいのかな?」と疑問に思ったのです。
どうして外資系の会社に転職したいのかを聞いてみると、「給与がいいから」「カッコいいから」「今の会社に不満があるから」のような答えが返ってきました。
また仲良くなってプライベートの話も聞くようになると、どうもご家族に辛い思いを抱えていて、手が届かない所に逃げ出したい思いもあるようでした。
家族から逃げたい
今の職場から逃げたい
逃げたいから、なんとなく「外資系」と言っていて、英語はそのための手段だったのです。
「TOEIC860点取りたいんです」という表面上の言葉の影に、本当は「現状を何とかしたい=逃げ出したい!」という、悲痛なまでの思いがあったのですね。
本心は「逃げたい」であって、「英語でバリバリ働いてやるぜ!」は本心ではなかったということです。
本心と違うから頑張れない
当時、カウンセリングの勉強をしていなかった頃の私でも、本当は彼女の本心が英語以外にあると分かっていました。
でも、どうすることもできませんでした。
クライアント側が「TOEIC860点を取って外資系にいきたい」と、少なくとも言葉ではっきり言っている。
会社はそれを叶えることを売りにしている。
私はそこで雇われた一会社員で、その状況でお金を頂いている以上、私は彼女の表面上の言葉を信じたふりをするしかなかったのです。
彼女が心理的に追い詰められていくだろうと分かっていながら、TOEIC860点を実現するためのプランを組むしかありませんでした。
かなりきついプランを組みました。
どうしてこのプランなのか言葉で説明すれば、彼女はいつでも「分かりました、頑張ります」と言ってくれました。
でも、頑張り続けることはできず、すぐに燃え尽きてしまう。
潜在意識では「辛い」「逃げたい」と思っているのだから当然のことです。
当時、悲痛な思いで彼女を見ていました。
「本当に英語がやりたいんですか?」
「無理して英語なんてやらなくてもいいんじゃないですか?」
「他の強みがたくさんあるじゃないですか」
って、本当に何度も何度も言いそうになりました。
実際彼女はほんわかした優しい雰囲気をいつもまとっていて、子供好きで動物好きで、外資系よりももっと他に、合うお仕事がありそうなイメージでした。
頑張ろうとした彼女のその後
何度も何度も燃え尽きそうになりながら、それでもその女性は頑張っていました。
そのうち体調を崩しがちになり、青い顔でレッスンに来ることが増えて、宿題もこなせないことが増えました。
最後にレッスンの途中でわっと泣いてしまった日が、私が彼女に会った最後になりました。
そしてその後は結局会社も辞め、もちろん英語のすくーるも辞めて、東京を離れたと聞いています。
何十万という高額な受講料と、大切な時間を膨大に投資した結果は、彼女の心身を限界まで押しやって終わってしまいました。
サポート側としての私の後悔と決意
「会社員」を言い訳に何もしなかった
最後に彼女が東京を離れることになったと聞いた時、私は心のどこかで「やっぱりこうなってしまった」と思いました。
ずっと辛そうで、SOSを何度も出していて、私は今彼女に必要なものは英語ではないと、本当は分かっていました。
でも気付かないふりをし続けて、人としてではなく「会社員として」、会社の利益のために本心を隠し、彼女にきついプランを提案して、お金を取りました。
英語以外のことは知らない方がいい
クライアントに深入りするべきじゃない
ビジネスライクに接しなくてはいけない
仮にもビジネスの現場で、会社員として利益を優先したのは当然のことだったのだと、頭では理解しています。
でも、とても後悔しています。
大好きな会社だったし、利益を出したい気持ちもあったけれど、組織のために自分を押し殺し、自分が「人道に反する」と思っている行動をとりました。
彼女に対しても申し訳ないことをしました。
「本当のやりたい」を無視しない
この後悔は、多分ずっと残っていくだろうと思います。
今の日本社会では、英語は時々人を追い詰めます。
「何か変えたい」「転職したい」と思って英語に手を出したけど、実は心が整っていないという方を、今までのキャリアでたくさん見てきました。
そんな人たちにお会いするたび、本当は私は「英語が全てじゃないよ」って言いたかったです。
「大丈夫ですか?」
「辛そうですね」
「今必要なのって本当に英語ですか?」
って、言ってみたかったのだと思います。
カウンセリングについて少しずつ学んでいる今も、セラピストは相手の領域に入ったらいけないという前提を重々承知した上で、やはり言いたくなると思います。
もう頭の言葉で誤魔化さないで、「本当のところどうなの?」っていうのを見ていきたいなって思うのです。
もし英語が辛い、苦しいと感じたら、どうか思い出してください。
出来ないことを「出来る」と言わない
良いと思わないものを「良い」と言わない
やりたくないことを「やりたい」と言わない
そんな風に生きてもいいのだと。
英語を習得しようと頑張るよりも、あなたがあなたらしく笑っていることが大切なのだと。
まだまだ「英語」が人を追い詰めることがある日本の社会で、少しでも苦しむ人が減っていくことを願ってやみません。